2009年 01月 09日
ロープの先の大物
f0103459_8302125.jpg たぐり寄せたロープについてきたのは、懸念していたすれ違いではありませんでした。30年前の記録があれば、まったく歯科医の手が入っていないナチュラルヒストリーだったのですが、それは夢。通院回数は問題なく立て直しのて手順だけが問題でした。
 地道な保存治療よりも野戦病院的な処置は大好きなので、午後の診療時間中に一応の決着をつけようと勢い込んでスタートしました。実はここに落とし穴がありました。壊滅的な状態を何とかしたことはあると思っていましたが、その総てには何かの処置がされていて、それを手がかりに事を進めていたのです。
 X線撮影、上顎の印象、浸麻、ホープレスの3歯の抜歯、下顎の印象の順で進め、技工室ではピンクの即重で、咬合床のようなものを作ってもらいました。最初に戻ってきた上顎模型と床があれば、試適をしながらヤマカンで前歯部の配列ぐらいはできると踏んでいたのです。

 ところがこれが大間違いで、中切歯2本の位置さえも何度やっても決められないのです。口輪筋の緊張はきわめて強く、開口状態で一定位置を保つことはできないので、正面観の写真撮影も大変でした。対合関係が分からない石膏模型上ではレジン歯1本も配列できず、口腔内では即重が固まるまで位置をキープできないという泥沼作業の繰り返しでした。
 作戦を変更し一歩遅れてでき上がった下顎の基礎床に、下顎左側3と顎堤頼みで人工歯を何本か仮配列し、それと対向する上顎に小さな蝋堤をつけました。これでも咬合位は決まりませんが、なんとか瞬間芸で上顎にも人工歯を接着しました。ところが何本か並んだところで咬んでもらうと、それまでより1センチ近くも下顎を前方にして反対咬合。
 技工士2名と3人がかりで悪戦苦闘すること3時間あまり、結局きちんとした咬合床をつくらなかった罰をしこたま味あわされました。初めての義歯だからと無口蓋にした基礎床の安定は悪いうえ、本人は咬むという感覚を放棄して久しいわけですから、きちんとステップを踏んでもむずかしかったでしょう。それでも一本の犬歯がさまざまな指標にはなったことは幸いでした。開始から数時間、予定は大分オーバーしましたが上下の義歯を装着し、鏡の前で「かみさんに家に入れてもらえるかなー」とつぶやきながら帰っていきました。

by my-pixy | 2009-01-09 10:29


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