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2011年 01月 16日
補綴と置換
 時代と共に人の考え方も言葉も変わるのはやむを得ないかもしれません。役所の看板や大臣の肩書きもどんどん変化していく中、歯科の専門科目標榜もずいぶん変わったようです。学会の方は日本○○学会ということで私にも分かる名称が並んでいます。ずいぶん影が薄くなったようでも日本補綴歯科学会も上位に名を連ねています。しかし大学の講座名となると十校十色、これでは横の繋がりなどつきそうもありません。
 
 失われたものを回復する行為に、補い綴るという名称をつけた明治の人たちの発想はすばらしいものだったと思います。しかしインプラント時代の昨今、補い綴るという考え方は急速に失われつつあるようです。代わって拡がっているのは一本歯を抜いたら、一本インプラントを埋入すれば良いという考え方です。たしかに中間一歯の欠損であれば、それによって前後の歯を切削しないでよい、という利点はあるかも知れません。もし植立されたのが自家歯牙移植歯であれば、埋入の効果は素直に受け入れられます。しかし置換したものがインプラントであれば、天然歯の経年的近心移動に追従はできませんから、接触関係の不調和が生ずる可能性があります。咬合面材料によっては対合歯の咬耗も大きくなるはずです。

 さらに大きな問題は欠損が拡大した場合です。田植えのように抜いたところに埋めるという発想しかなければ、67欠損になれば2本植立するしかないでしょう。欠損が増えれ当然のようにば埋入本数は増え、置換と補綴との差はどんどん開いて行きます。ブリッジやパーシャル・デンチャーを知らなければ支台歯という発想は生まれず、ただ埋入本数を増やすしかないでしょう。

 長かったすれ違い咬合などとの苦闘を経て、ようやく辿り着いた欠損形態の改変という新時代の幕開けなのに、片側遊離端欠損さえも真剣に考えようとしない置換歯科医療には大きな不満を隠せません。むかし「戦争を知らないこども達」という唄がありました。入れ歯を知らないお年寄りが本当に幸せかどうか答は10年以内に出るでしょう。

by my-pixy | 2011-01-16 16:55


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