2009年 01月 09日
![]() 地道な保存治療よりも野戦病院的な処置は大好きなので、午後の診療時間中に一応の決着をつけようと勢い込んでスタートしました。実はここに落とし穴がありました。壊滅的な状態を何とかしたことはあると思っていましたが、その総てには何かの処置がされていて、それを手がかりに事を進めていたのです。 X線撮影、上顎の印象、浸麻、ホープレスの3歯の抜歯、下顎の印象の順で進め、技工室ではピンクの即重で、咬合床のようなものを作ってもらいました。最初に戻ってきた上顎模型と床があれば、試適をしながらヤマカンで前歯部の配列ぐらいはできると踏んでいたのです。 ところがこれが大間違いで、中切歯2本の位置さえも何度やっても決められないのです。口輪筋の緊張はきわめて強く、開口状態で一定位置を保つことはできないので、正面観の写真撮影も大変でした。対合関係が分からない石膏模型上ではレジン歯1本も配列できず、口腔内では即重が固まるまで位置をキープできないという泥沼作業の繰り返しでした。 作戦を変更し一歩遅れてでき上がった下顎の基礎床に、下顎左側3と顎堤頼みで人工歯を何本か仮配列し、それと対向する上顎に小さな蝋堤をつけました。これでも咬合位は決まりませんが、なんとか瞬間芸で上顎にも人工歯を接着しました。ところが何本か並んだところで咬んでもらうと、それまでより1センチ近くも下顎を前方にして反対咬合。 技工士2名と3人がかりで悪戦苦闘すること3時間あまり、結局きちんとした咬合床をつくらなかった罰をしこたま味あわされました。初めての義歯だからと無口蓋にした基礎床の安定は悪いうえ、本人は咬むという感覚を放棄して久しいわけですから、きちんとステップを踏んでもむずかしかったでしょう。それでも一本の犬歯がさまざまな指標にはなったことは幸いでした。開始から数時間、予定は大分オーバーしましたが上下の義歯を装着し、鏡の前で「かみさんに家に入れてもらえるかなー」とつぶやきながら帰っていきました。 ▲
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| 2009-01-09 10:29
2009年 01月 08日
![]() しかし宴もたけなわになる頃には、私の関心は職業的なものに変わっていきました。楽しかった思い出ばなしは尽きませんが、欠損歯列の方が気になってそれどころではないのです。(むかし可愛いいコブタをつれて伊豆にでかけ、一夜にして美味しい丸焼きに変わることを経験しましたが、何かそれを思い出していました。) 咬頭嵌合位が失われていることは明らかですが、時折、下顎前歯がちらちら見えるので無歯顎ではなさそうです。前後的なすれ違いかもしれません。 下の画像は海外で買ってきたパロディの絵はがきで、講演会の時などに「総義歯にしたくない」というコメントに使っていたものです。その生まれ変わりのような人を目の前にしては、心穏やかにいられるはずはありません。わが歯科医人生50余年でもこんなケースは見たことありませんが、それが身内というのは絶対に困ります。首に綱をつけても診療室に連れ込まなければなりません。 歯科医としてのショックと生き甲斐に満たされ、明日の作戦を思いめぐらしつつ眠りにつきました。 ![]() ▲
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| 2009-01-08 19:16
2008年 12月 11日
![]() ![]() 2枚の正面観、上の写真は1977年9月のものです。この後、すれ違い防衛のため悪戦苦闘の24年を過ごしました。歯は残すことができました。歯と一緒に周囲の骨も残りました。しかし上顎右側の顎堤は無惨にも吸収し、舌は巨大になっています。 04年に総義歯に移行しましたが、始めは総義歯の形になりませんでした。4年を経てどうやらそれらしい形にはなりましたが、左右の臼歯部の高さは大きく傾いたままです。こんな悲劇はなくしたいものです。 1960年代から続けてきた経過観察も、30年40年を経過するものがでてきました。この患者さんもそんな中の一人で、千数百枚の画像を残してきました。そのなかの3枚を眺めながら感じることを、昔の日本人は「もののあわれ」と表現したのでしょうか。少し勉強する必要がありそうです。 ▲
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| 2008-12-11 20:23
2008年 10月 24日
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| 2008-10-24 16:54
2008年 05月 28日
![]() 日本ではドルダーバーやスタッド・アタッチメントなどを支台に、少数残存症例に使いだしたのが始まりでした。当時は上の写真のようにクラスプのレストがとんで、義歯が沈下してしまうトラブルが多く、レストを強化するよりも義歯床で押さえ込んでしまおうという考えでした。(中段)私も何症例か試みた時期がありましたが、歯周組織のマネージメントができず短期間でテレスコープに移行しました。オーバーデンチャーという呼び名はきわめて曖昧で、故河邊清治先生はことあるごとに「大馬鹿デンチャー」と酷評されていました。 そんなこともあってオーバーデンチャーという呼び名は、その後完全に封印してしまいました。また支台歯の周辺は床で覆わないことを絶対条件にしてきました。しかし世間一般ではマグネットとともに「大馬鹿デンチャー」は「だめもとデンチャー」と名を変えて広く使われているようです。この人たちにかかると、テレスコープを使ったわれわれのパーシャル・デンチャーも十把一絡げでオーバーデンチャーです。ということでインプラント時代になってもこの呼称は使えないのです。 ▲
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| 2008-05-28 20:19
2008年 05月 23日
![]() 写真は87年の臨床ファイル2のコピーと最近の状態です。大分みすぼらしくはなっていますが、右の32二本が守りの要になっています。初診時には保存が危ぶまれる歯がたくさんあり、それらを残して丈の短い内冠にしていました。しかし無理な保存をした歯はすぐに失われ、この2本だけになりました。86年、短かった内冠の丈を伸ばしてから22年、患者さんも現役は引退されましたが、この二本のために半年ごと検診に見えています。 こうした症例を見るにつけ、多数のインプラントを使った無歯顎対応には違和感を感じます。見習うべきはこの2本の経過です。 ▲
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| 2008-05-23 12:36
2008年 05月 20日
![]() メインテナンス抜群というわけでもなく補綴も美しくないので、その後取りあげることもありませんでしたが、いつの間にか22年が過ぎてしまいました。ポケットも10ミリ動揺もありますが安定度は抜群です。半年ごとに来院されますが下手な介入はしないようにしています。 他にも類似した長期症例はあります。いずれも構造的には総義歯で、Sを担っているのは義歯床です。支台歯はわずかにそれを補佐して、横揺れや離脱を防止しているのです。 その義歯床を捨て去ってチタンの植林をすることは暴挙です。オーバーデンチャーと呼ばれてきた症例群を見習って、その残存歯が果たしてきた仕事をインプラントに肩代わりしてもらうことがB>R>Sです。理想は2箇所2本ですが1本のインプラントも十分可能性はあるはずです。 ▲
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| 2008-05-20 17:02
2008年 05月 16日
![]() 総義歯が上手な方なら「そんなもの要らない!」と一言で片付けられるかもしれません。でもあまり総義歯が得意でもない私には、やはりしがみつく何かがほしいのです。現に8番一歯が残っているだけで、総義歯にはない効果を上げているケースは数多く経験します。 反面、床がない高架橋のようなインプラント・ブリッジは大嫌いでしたし、オールオンフォーとかいう工事用三脚みたいなインプラントも好きになれません。義歯床の助けも借りればそんなに大層なものは必要ないはずです。自分たちさえ安泰ならば、相手や周辺のことなどどうでもよいという傲慢な設計です。残存歯を含め2本あれば十分なことは、すでにはっきりしています。支台装置はテレスコープでもマグネットでもクラスプでもOKです。(ただ即重レジンでべたべた埋めたマグネットは例外です。)残るは一本で!の実現が夢なのです。 あの症例はアバットメント装着後一年未満ですが、あと2〜3年を無難に経過すれば、下顎無歯顎への対応は大きく変わるでしょう。そこにはBとかSとかいう原理がまかり通る世界なのです。不幸にも、無歯顎になってしまった後期高齢者に、チタンの森や林は不要なのです。同世代の歯科医として、少ない侵襲と少ない負担で、快適な生活を送っていただくことが願いです。インプラント以前に、まず過去の歯科臨床を学ぶべきだという主張は変わりません。 ▲
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| 2008-05-16 09:32
2008年 05月 14日
![]() この本の中には一本のインプラントで従来の義歯を免れたケースを幾つもあります。下顎の総義歯を回避した症例は、昨年の雑誌連載のものを含めて4つ、3ケースは私と同じ後期高齢者の方ですが、いずれも順調な経過をたどっています。 他のケースは1〜2の残存歯がありますがこちらは孤立無援です。最後まで残っていたのは左の3番でしたが、そこには植立できず反対側になりました。3番抜歯とほとんど同時期に埋入しましたので、治癒までの期間は最短で済みました。できればもう一本欲しいなとは思いましたがまずはこれでスタート。さすがに一本はきびしく、顎堤側面にじゅく創ができています。アバットメントに一部フラットな面はあるものの正円形なインプラント上部構造の問題点です。楕円形の天然歯とはまったく違います。義歯側にメタルキャップを入れて問題は解決していますが、残存歯がある他のケースとは安定度が違います。 経過を見ながら次の手は決めますが、ここでの教訓は、一般的なパーシャル・デンチャーではS>B>Rだった三機能の優先順位が、こうした場面ではB>R>Sに変わるということです。安定したBの獲得には、できることなら2つ以上の広い軸面が必要ですから、第2の支台歯が欲しいことは当然です。支台歯1本、内冠も省略したことはぎりぎりの設計です。それによって新たな可能性が見えてくるかも知れません。 ▲
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| 2008-05-14 18:43
2008年 02月 27日
昨夜の臨床研究会で、2.20の土竜のトンネルにアップしたケースの処置方針について、若手メンバーの意見を聞きました。上顎8の移植が2名、インプラント1名で残りの数名はブリッジでした。ブリッジ派に5の支台形態は?と聞くとしどろもどろながらメタルボンド。私の手の内まで読んでくる余裕はないらしく、予想したとはいえ情けない解答でした。 ![]() ![]() ![]() この余興以外に「1本のインプラント」というタイトルのケースプレもしましたが、こちらでもインプラントを植立してまで可撤性??という場の雰囲気は支配的で、ヒョーロン連載にくどくど書いた思いなど伝わってはいませんでした。「その年だから、カリスマ性で患者さんも納得するでしょうが、われわれが言っても・・・」といった意見を聞くにつけ、入れ歯にしたくないのは患者さんよりも歯科医の方だと思わざるを得ませんでした。多数歯欠損になればそんなこと言ってられなくなるのは分かり切っているのですが、入れ歯嫌い歯科医患者連合軍には歯が立ちません。インプラントはこの人達には天からの授かり物なのでしょう。 患者さんは35年経過した7のクラウンを外すだけで、5の小臼歯のセラミックを壊されることも外科処置もなく、処置開始の日から欠損のない状態に戻られました。ミニデンチャーは義歯を外さないでもブリッジと同じメインテナンスができますし、より徹底した手入れもきわめて簡単、歯冠ブラッシなど不要です。外したくないときには義歯のことは忘れて、徹底的にきれいにしたいときだけ外して清掃できるミニデンチャーは義歯の理想型です。その上、患者さんの経済的負担はインプラントより少ないのです。 ▲
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| 2008-02-27 10:30
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